同じサイコロの問題で比較する 「事象の排反」と「試行の独立」の違い
確率の分野で混同しやすい「排反(同時に起こらない)」と「独立(互いに影響しない)」という2つの概念を、具体例を用いて明確に整理します。
1. 決定的な違いの全体像
確率を計算するとき、「足し算」をするべきか「掛け算」をするべきか迷ったことはありませんか?その判断基準となるのが、排反(はいはん)と独立(どくりつ)です。
| 項目 | 事象の排反 | 試行・事象の独立 |
|---|---|---|
| 対象となるもの | 同じ1つの試行の中で起こる事象 | 異なる複数の試行(あるいは1つの試行内の互いに影響しない事象) |
| 意味 | 2つの事象が「同時に起こらない」 | それぞれの結果が「互いに影響を及ぼさない」 |
| 計算方法 | 確率を足す(和の法則) | 確率を掛ける(積の法則) |
| 数式での表現 | \( P(A \cup B) = P(A) + P(B) \) | \( P(A \cap B) = P(A) \times P(B) \) |
排反 = 「または(OR)」
⇒ 足し算!
独立 = 「かつ(AND)」「続けて」
⇒ 掛け算!
2. サイコロの例で比較する
「サイコロ」を使って、排反と独立がどのように違うのかを具体的に見てみましょう。例によって「試行」の捉え方が異なる点に注目してください。
- 事象A:「1」の目が出る
- 事象B:「2」の目が出る
1回しかサイコロを振らないので、「1」の目でありながら同時に「2」の目が出ることは絶対にありません。つまり \( P(A \cap B) = 0 \) となるため、これは排反です。
一方で独立かどうかを判定するために、それぞれの確率 \( P(A) = \frac{1}{6} \)、\( P(B) = \frac{1}{6} \) を用いて積の法則が成り立つか確認します。
- 事象A:試行1(1回目)に「1」の目が出る
- 事象B:試行2(2回目)に「2」の目が出る
「1回目に1が出て、2回目に2が出る」という結果は同時に起こり得る(実際、(1, 2)というパターンが存在する)ため \( P(A \cap B) \neq 0 \) となり、これは排反ではありません。
一方で、1回目に何の目が出ようと、2回目にサイコロを振ったときの目の出やすさには一切影響しません(サイコロは記憶を持っていません)。それぞれの確率は \( P(A) = \frac{1}{6} \)、\( P(B) = \frac{1}{6} \) であり、積の法則が成り立つか確認します。
- 事象A:目の和が「3」になる(パターンは (1,2), (2,1) の2通り)
- 事象B:目の和が「4」になる(パターンは (1,3), (2,2), (3,1) の3通り)
サイコロを2回投げた結果全体を見たとき、目の和が「3」でありながら同時に「4」になることは絶対にありえません。つまり \( P(A \cap B) = 0 \) となるため、これは排反です。
※ 独立の例①のように「試行1」と「試行2」に分けない理由は、排反は「同じ1つの試行の中で」同時に起こらないことを指すためです。試行を分けてしまうと排反の判定ができません。
一方で独立かどうかを判定するために、それぞれの確率 \( P(A) = \frac{2}{36} \)、\( P(B) = \frac{3}{36} \) を用いて積の法則が成り立つか確認します。
- 事象A:大きいサイコロで「1」の目が出る
- 事象B:小さいサイコロで「2」の目が出る
「大が1になり、小が2になる」という結果は同時に起こり得るため \( P(A \cap B) \neq 0 \) となり、これは排反ではありません。
一方で、大きいサイコロで何の目が出ようと、小さいサイコロの目の出やすさには一切影響しません(物理的に完全に独立しています)。それぞれの確率は \( P(A) = \frac{1}{6} \)、\( P(B) = \frac{1}{6} \) であり、積の法則が成り立つか確認します。
- 事象A:偶数の目が出る(2, 4, 6 の3通り)
- 事象B:素数の目が出る(2, 3, 5 の3通り)
サイコロを1回振って「2」の目が出た場合、それは偶数であり同時に素数でもあります。このように「同時に起こり得る(共通部分がある)」ため、排反ではありません。
一方で、独立かどうかを判定するために、それぞれの確率 \( P(A) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2} \)、\( P(B) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2} \) を用いて積の法則が成り立つか確認します。
- 事象A:「7」の目が出る(確率0)
- 事象B:「1」の目が出る
「7」の目と「1」の目が同時に出ることは絶対にないため、これは排反です。
一方で、独立かどうかを判定するために、それぞれの確率 \( P(A) = 0 \)、\( P(B) = \frac{1}{6} \) を用いて積の法則が成り立つか確認します。
「独立だから排反だ」と混同してしまう人が多くいます。
独立な試行(サイコロを2回振るなど)において、「1回目に1が出る」ことと「2回目に2が出る」ことは同時に起こり得ます(実際、(1, 2)という結果が存在します)。したがって、独立な事象は排反ではありません。
数学の教科書では「独立」という言葉が、大きく分けて2つの意味で使われます。
- 試行の独立:
サイコロを2回振る、コインとサイコロを投げるなど、物理的に影響を与えない別々の行動(試行)のこと。(独立の例①の捉え方) - 事象の独立:
同じ1つの試行の中で定義された2つの事象において、一方が起こったことが、もう一方の起こる確率を変えない関係性のこと。数式で \( P(A \cap B) = P(A)P(B) \) が成り立つ状態。(独立の例②の捉え方)
※解説によって「2個のサイコロを投げる」を試行の独立として教えるか、事象の独立として教えるかは異なりますが、本質的な計算式(積の法則)は全く同じになります。
【独立の例②】などで「2個のサイコロ」を投げる際、もしサイコロが全く同じ見た目で「区別できない」場合でも、独立性や確率は変化するのでしょうか?
結論:全く変化しません。
高校数学の確率の鉄則として、「見た目が同じであっても、異なるものは区別して計算する」というルールがあります。
区別できないサイコロであっても、頭の中で「サイコロA」「サイコロB」と名前をつけて、全事象を \( 6 \times 6 = 36 \) 通りとして計算します。そのため、事象の独立性も確率の計算結果も、区別できる場合と全く同じになります。
事象の「排反」と「独立」の組み合わせは、論理的に以下の4パターンになります。
- ① 排反ではあるが独立ではない
本記事の【排反の例①②】。(一方が起きるともう一方は絶対に起きない=確率が0に変わるため、独立ではない) - ② 排反ではないが独立ではある
本記事の【独立の例①②】。(同時に起こり得るため排反ではない) - ③ 排反でもないし独立でもない
本記事の【排反でも独立でもない例】。(同時に起こり得るため排反ではなく、互いに確率を変化させる「従属関係」のため独立でもない) - ④ 排反でもあり独立でもある
本記事の【排反でもあり独立でもある例】。(どちらかの確率が「0」の事象を含む場合のみ成り立つ、極めて特殊なケース)
3. 図解で視覚的に理解する
排反と独立の概念を、それぞれ適切な図で表現すると以下のようになります。
事象の排反(ベン図)
ベン図を描いたとき、2つの円が全く重ならない状態が「排反」です。足してもダブりが発生しません。
試行の独立(試行の流れ)
試行が分かれており、前の結果が次の確率を変化させない状態が「独立」です。確率は連続して起こるので掛け算になります。
まとめ:計算式の使い分け
\( P(A \cup B) = P(A) + P(B) \)
\( P(A \cap B) = P(A) \times P(B) \)