方程式から学ぶ数の拡張 \( x^2 = -1 \) の解と虚数単位 \( i \)
「2乗してマイナスになる数」は存在するのか?方程式を解く歴史から、数の拡張と新しい数「虚数」の誕生を視覚的に解き明かします。
1. はじめに:数の拡張
私たちが普段使っている「数」は、人類の歴史の中で必要に応じてその範囲が拡張されてきました。まずは、これまで学んできた数の分類を振り返ってみましょう。
- 自然数: モノを数えるための基本の数(1, 2, 3...)
- 整数: 引き算を常に可能にするために「0」と「負の数」を追加
- 有理数: 割り算を常に可能にするために「分数」を追加
- 実数: 平方根などを追加し、数直線上のすべての点を隙間なく埋める数
人類は計算をより便利に、どんな問題でも解けるようにするために、「新しい数」を発明し、数の世界を広げてきました。
実数の世界では、正の数でも負の数でも、2乗すると必ず0以上になります。
この性質が、後の方程式の話で重要になってきます。
2. 数の拡張と方程式
数の範囲がどのように拡張されてきたかを、「2次方程式を解く」という視点から見てみましょう。方程式によって、解が存在する数の範囲が異なります。
| 方程式 | 解 | どの数の範囲で解けるか? |
|---|---|---|
| \( x^2 = 4 \) | \( x = \pm 2 \) | 整数の範囲 で解ける |
| \( x^2 = \frac{9}{4} \) | \( x = \pm \frac{3}{2} \) | 有理数の範囲 で解ける |
| \( x^2 = 3 \) | \( x = \pm \sqrt{3} \) | 実数の範囲 で解ける |
| \( x^2 = -3 \) | 実数の範囲にはない | 実数の範囲では解けない |
実数の限界
実数は、正の数でも負の数でも、2乗すると必ず 0 以上の数(正の数または0)になります。
\( (-2)^2 = 4 \quad (>0) \)
そのため、\( x^2 = -3 \) のように「2乗してマイナスになる数」は、これまで学んできた実数の世界には存在しません。
人類は「今ある数の範囲では解けない方程式」に出会うたびに、それが解けるように「新しい数」を定義し、数の世界を広げてきました。
つまり、方程式を解く歴史は、数の拡張の歴史でもあるのです。
\( x^2 = -3 \) を解こうとすると、「解なし」となってしまいます。数学者たちは、この行き止まりを突破する方法を考えました。
3. 虚数単位 \( i \) の誕生
\( x^2 = -3 \) のような方程式を解けるようにするためには、実数の外側へ数の範囲をさらに拡張し、「2乗すると負になる新しい数」を考える必要があります。
新しい数を作るにあたり、その基準となる「単位」を次のように定めます。
「2乗すると -1 となる数」を新たに考え、それを \( i \) で表し、虚数単位(imaginary unit)と名づけます。
虚数単位の定義式
純虚数とは?
この虚数単位 \( i \) を用いて、実数に \( i \) を掛け合わせた数を「純虚数(じゅんきょすう)」と呼びます。
ここで、純虚数 \( \sqrt{3}i \) と \( -\sqrt{3}i \) をそれぞれ2乗してみましょう。
2乗して \( -3 \) になるということは、\( \sqrt{3}i \) も \( -\sqrt{3}i \) も \( -3 \) の平方根であるということです。
左側の計算プロセスを「式の形」として捉え直してみましょう。
つまり、●は「\( -3 \) の平方根」
つまり、●は「\( -a \) の平方根」
これによって、先ほど解けなかった方程式 \( x^2 = -3 \) も、\( x = \pm \sqrt{3}i \) として解くことができるようになりました。
\( i \) を含んだ数の計算ルール
\( i \) を含んだ数の計算は、基本的には \( x \) や \( a \) などの文字式の計算と全く同じように扱います。
そして、唯一にして最大のルールが、「\( i^2 \) が現れたときは \( -1 \) で置き換える」ということです。
実数と虚数を組み合わせた \( a + bi \) の形をした数を「複素数」と呼びます。これが私たちが高校数学で学ぶ最終的な数の拡張の到達点です。
4. 負の数の平方根
虚数単位 \( i \) を使うと、負の数の平方根をすっきりと表現できるようになります。
\( a > 0 \) のとき、2乗して \( -a \) になる数は \( \sqrt{a}i \) と \( -\sqrt{a}i \) の2つあります。
つまり、\( -a \) の平方根は \( \pm\sqrt{a}i \) となります。
ここで、先ほどの方程式の話に立ち戻って見比べてみましょう。
| 方程式 \( x^2 = 3 \) の場合 | 方程式 \( x^2 = -3 \) の場合 |
|---|---|
|
解は \( x = \pm\sqrt{3} \)
|
解は \( x = \pm\sqrt{3}i \)
↓
\( x = \pm\sqrt{-3} \) と表したい!
|
方程式 \( x^2 = 3 \) の解をルートを使って \( x = \pm\sqrt{3} \) と表したように、方程式 \( x^2 = -3 \) の解もできれば \( x = \pm\sqrt{-3} \) と同じような形で表せると便利です。
つまり、そのためには \( \sqrt{-3} = \sqrt{3}i \) と約束(定義)すればよいことになります。これを一般化すると、次のようなルールになります。
ルートの中がマイナスのときのルール
特に、\( a = 1 \) の場合は重要な基本単位となります。
「\( i^2 = -1 \) なら、\( i = \pm\sqrt{-1} \) になるのでは?」
確かに方程式 \( x^2 = -1 \) の解は \( x = \pm i \) と2つあります。
しかし、「\( i \)」という記号そのものは、「2乗して \( -1 \) になる数のうちの1つだけ」を指す名前として決められています。
なぜ \( \pm \) にしないの?
もし \( i = \pm\sqrt{-1} \) と定義してしまうと、「\( i \)」という1つの文字が、プラスとマイナスの2つの値を同時に表すことになってしまいます。そうすると、\( i + i \) のような計算をしたときに答えが一つに定まらず、数学のルールが崩壊してしまいます。
そのため、「\( i \) は \( \sqrt{-1} \) のこと」とただ一つの数として定め、もう一つの解は「\( -i \)」と表す約束になっています。(\( \sqrt{4}=2 \) であり、\( \pm 2 \) とはしないのと同じ理屈です)