本質から理解する数学・疑問解決編

直感のズレを解消! 反復試行の確率と「平均」の罠

「勝率3/5なら、5試合して3勝2敗になる確率も3/5ではないのか?」
多くの高校生が陥る直感と公式のズレを、図解を用いて視覚的に解き明かします。

1. 問題の確認と「直感」とのズレ

【例題】

🏓 卓球の選手A、Bが試合をすると、AがBに勝つ確率は $\frac{3}{5}$ である。AがBと5試合行って、3勝2敗となる確率を求めよ。(※各試合は独立とする)

この問題は「反復試行の確率」の公式 ${}_n\mathrm{C}_r p^r (1-p)^{n-r}$ を使うと機械的に解くことができます。

【ア:公式による計算】 \( {}_5\mathrm{C}_3 \left(\frac{3}{5}\right)^3 \left(\frac{2}{5}\right)^2 = 10 \times \frac{27}{125} \times \frac{4}{25} = \frac{216}{625} \)
🤔 ここで湧き上がる疑問

「AがBに勝つ確率が $\frac{3}{5}$ ということは、5試合行えば平均して3回勝つ(3勝2敗になる)ということですよね?」

「それなら、反復試行の確率の公式なんか使わずに、
【イ:直感的な答え】 3勝2敗となる確率は単純に $\frac{3}{5}$(つまり $\frac{375}{625}$)である。
としてはいけないのでしょうか?」

確かに、ア(公式:$\frac{216}{625}$)と、イ(直感:$\frac{375}{625}$)には大きな差があります。結論から言うとアが正解なのですが、なぜこのような直感のズレが起きるのでしょうか?

! 陥りやすい勘違い

「確率」と「期待値(平均)」を混同してしまうのが原因です。
$\frac{3}{5}$ はあくまで「1試合勝負したときの勝率」であり、「5試合というセット」に対する確率ではありません。

2. グラフで見る「すべての結果」の確率

直感(イ)が間違っている理由を視覚的に理解するために、5試合した場合の「0勝〜5勝までのすべての結果の確率」を公式で計算し、グラフにしてみましょう。

40% 20% 0勝 1.0% 1勝 7.7% 2勝 23.0% 3勝 34.6% (216/625) 4勝 25.9% 5勝 7.8%

グラフを見ると一目瞭然ですね。「3勝」する確率は確かにすべての結果の中で一番高い(山の頂点)です。

なぜ確率は60%(3/5)にならないのか?

確率は、起こりうるすべての結果を合わせると必ず「100%($\frac{625}{625}$)」になります。つまり、100%という一つのパイ(ケーキ)を、0勝〜5勝までのすべての結果で奪い合っている状態です。

もし仮に「3勝」の確率が $\frac{3}{5}$(60%)もあった場合、残りのたった40%を「0勝, 1勝, 2勝, 4勝, 5勝」の5パターンで分け合うことになってしまいます。

しかし現実には、勝率 $\frac{3}{5}$ の実力があれば「4勝」する可能性も十分にありますし(約26%)、少し調子が悪ければ「2勝」になる可能性もかなりあります(約23%)。このように、一番起こりやすい「3勝」の周辺の結果も大きなパイを奪っていくため、「3勝」単独で60%もの確率を占有することはできないのです。

📊 【参考】すべての確率の計算式

分母を $5^5 = 3125$ に統一しています。

  • 0勝: ${}_5\mathrm{C}_0 \left(\frac{3}{5}\right)^0 \left(\frac{2}{5}\right)^5 = \frac{32}{3125}$
    (約1.0%)
  • 1勝: ${}_5\mathrm{C}_1 \left(\frac{3}{5}\right)^1 \left(\frac{2}{5}\right)^4 = \frac{240}{3125}$
    (約7.7%)
  • 2勝: ${}_5\mathrm{C}_2 \left(\frac{3}{5}\right)^2 \left(\frac{2}{5}\right)^3 = \frac{720}{3125}$
    (約23.0%)
  • 3勝: ${}_5\mathrm{C}_3 \left(\frac{3}{5}\right)^3 \left(\frac{2}{5}\right)^2 = \frac{1080}{3125}$
    (約34.6%)← 問題の答え
  • 4勝: ${}_5\mathrm{C}_4 \left(\frac{3}{5}\right)^4 \left(\frac{2}{5}\right)^1 = \frac{810}{3125}$
    (約25.9%)
  • 5勝: ${}_5\mathrm{C}_5 \left(\frac{3}{5}\right)^5 \left(\frac{2}{5}\right)^0 = \frac{243}{3125}$
    (約7.8%)

合計: $\frac{3125}{3125} = 1$ (100%)

💡 サイコロで考えてみよう

【問題】

サイコロで1が出る確率は $\frac{1}{6}$ である。サイコロを6回振ったとき、1が1回だけ出る確率を求めよ。

という問題だったと考えてみてください。

「サイコロで1が出る確率は $\frac{1}{6}$ だから、6回振れば平均して1回1が出ます。
だからといって、ぴったり1回だけ1が出る確率が $\frac{1}{6}$(約16.7%)だ」とは思いませんよね?

【実際の確率】

${}_6\mathrm{C}_1 \left(\frac{1}{6}\right)^1 \left(\frac{5}{6}\right)^5$
$= 6 \times \frac{1}{6} \times \frac{3125}{7776} = \frac{3125}{7776} \fallingdotseq \boldsymbol{40.2\%}$

2回出ることもあれば、1回も出ないこともあるため、直感的な期待値と実際の確率は一致しません。

3. 結論:アとイの数値の意味の違い

以上のことから、アとイの数値が持つ「本当の意味」を整理しましょう。

【イ】 $\frac{3}{5}$(直感的な値)が意味するもの

これは「1試合あたり勝つと期待できる割合(勝率)」です。
5試合すれば「平均して」3勝するでしょう、という「期待値(平均)」の話をしています。
決して「ぴったり3勝2敗になる確率」のことではありません。

【ア】 $\frac{216}{625}$(公式の値)が意味するもの

これこそが「5試合というセットをこなしたとき、結果が『ぴったり3勝2敗』という特定の状態に落ち着く確率」です。
勝率が $\frac{3}{5}$ の相手に5回勝負を挑んだとき、約34.6%の確率で「3勝2敗」という結果になります。

反復試行の公式がやっていること

ちなみに、反復試行の公式は、魔法ではありません。以下の2つの要素を掛け算しているだけです。

何戦目に勝つかの
パターン数
\( {}_5\mathrm{C}_3 \)
\( \times \) 「〇〇〇××」となる
1つのパターンの確率
\( \left(\frac{3}{5}\right)^3 \left(\frac{2}{5}\right)^2 \)

「〇〇〇××」の順で勝敗が決まる確率は、$\frac{3}{5} \times \frac{3}{5} \times \frac{3}{5} \times \frac{2}{5} \times \frac{2}{5} = \frac{108}{3125}$ です。
しかし、3勝2敗になる順番は「〇×〇×〇」や「××〇〇〇」など ${}_5\mathrm{C}_3 = 10$ 通り存在します。
だから、1パターンあたりの確率を10倍(10通り分足し合わせる)しているのです。

最終的な結論

「平均して3勝する」ことと、「ぴったり3勝する確率」は別物!
だから、公式で導いた【ア】が正しい確率となる。
🤔 なぜ ${}_5\mathrm{P}_3$ ではなく ${}_5\mathrm{C}_3$ なのか?

確率の計算をしていると、「ここは $P$ だっけ? $C$ だっけ?」と迷うことがありますよね。今回の「3勝2敗の並べ方」で組合せの $C$ を使う理由を整理しましょう。

順列 ${}_5\mathrm{P}_3$ は、5つの場所から3つを選んで「順番をつけて並べる」(1番目、2番目、3番目と区別する)計算です。
これを今回に当てはめると、「Aの勝ち(〇)」を「勝ち①」「勝ち②」「勝ち③」と区別して数えてしまうことになります。

【${}_5\mathrm{P}_3 = 60$ 通りの数え方をしてしまうと…】

勝ち①・勝ち②・勝ち③・×・× 勝ち②・勝ち①・勝ち③・×・× 勝ち③・勝ち②・勝ち①・×・× ...など(計6パターン)

↑ 試合結果としてはすべて同じ「〇・〇・〇・×・×」なのに、
別のパターンとして重複して(多めに)数えてしまいます!

実際には、「どの勝ちも同じ『〇』」であり区別しません。
つまり、5試合という5つの枠(場所)の中から、単に「『〇』を入れる3つの枠を選ぶだけ」なので、順番を気にしない組合せ ${}_5\mathrm{C}_3$ が正解になります。

🧠 思考のポイント

この質問は、数学の本質を突いた非常に鋭い疑問です。

公式を丸暗記して計算するだけでなく、「なぜ直感とずれるのか?」を突き詰めることで、「確率分布」や「期待値」という更に深い数学の世界の入り口に立つことができます。

💡 同じものを含む順列

「〇」3つと「×」2つを並び替えると考えて、「同じものを含む順列」でパターン数を計算することもできます。

$\frac{5!}{3!2!} = \frac{5 \cdot 4 \cdot 3 \cdot 2 \cdot 1}{(3 \cdot 2 \cdot 1) \times (2 \cdot 1)} = 10$

実は、この式は組合せ ${}_5\mathrm{C}_3$ の展開式と全く同じです。どちらの考え方でアプローチしても、正しい答えに行き着きます。