本質から理解する数学・図解解説

和の公式から未知の世界へ Σ(シグマ)の公式証明と無限級数の不思議

$\sum k^2$ の証明で「なぜ突然その恒等式が出てくるのか?」という疑問を解消し、さらに部分和が求まらない $\sum \frac{1}{k}$ や $\sum \frac{1}{k^2}$(バーゼル問題)の世界まで一気に案内します。

1. $\Sigma$(シグマ)記号の基本と性質

数列 $a_1, a_2, a_3, \cdots, a_n$ があったとき、これらの和を $a_1 + a_2 + a_3 + \cdots + a_n$ と書くのは、項数が多くなると非常に長くなってしまい不便です。
「数列の和をスッキリとまとめたい」
そこで、次のような記号を使うことにします。

\[ \sum_{k=1}^n a_k = a_1 + a_2 + a_3 + \cdots + a_n \]

左辺の大きな記号について見てみましょう。この記号は、それぞれのパーツに意味があります。

\[ \sum_{k=1}^n a_k \]
  • $\Sigma$(シグマ):ギリシャ文字の「S」。英語の「和(Sum)」の頭文字から来ており、「全部足し合わせる」という命令を表します。
  • $k=1$(下部):和を足し始める最初の番号(スタート地点)です。この場合、$k$ に $1$ を入れるところから始まります。
  • $n$(上部):和を足し終わる最後の番号(ゴール地点)です。$k$ が $n$ になるまで足し続けます。
  • $a_k$ の $k$(右側):変化していく変数です。$k$ に $1, 2, 3, \dots, n$ と順番に代入していき、できたものを全て「+」で繋ぎます。

【具体例】

\[ \sum_{k=1}^5 a_k = a_1 + a_2 + a_3 + a_4 + a_5 \] \[ \sum_{k=3}^8 a_k = a_3 + a_4 + a_5 + a_6 + a_7 + a_8 \] \[ \sum_{k=1}^{n-1} a_k = a_1 + a_2 + a_3 + \cdots + a_{n-1} \]
\[ \sum_{k=1}^5 3 = 3 + 3 + 3 + 3 + 3 = 3 \times 5 = 15 \]
\[ \sum_{k=1}^5 (2k-1) = 1 + 3 + 5 + 7 + 9 = 25 \]

(奇数の数列の第5項までの和)

💡 $k$ を含まない定数の和

$\sum_{k=1}^n c$ のように、$k$ を含まない定数の場合は、単にその数字を $n$ 回足すだけになります。代入すべき変数が項の中に存在しないため、すべての項が $c$ になります。

💡 代入のプロセス

$\sum_{k=1}^5 (2k-1)$ は、$k$ に $1$ から $5$ まで順番に代入して足し合わせることを意味します。

  • $k=1$ を代入:$(2\cdot1 - 1) = 1$
  • $k=2$ を代入:$(2\cdot2 - 1) = 3$
  • $k=3$ を代入:$(2\cdot3 - 1) = 5$
  • $k=4$ を代入:$(2\cdot4 - 1) = 7$
  • $k=5$ を代入:$(2\cdot5 - 1) = 9$

最後に、これらをすべて「+」で繋ぐと $1+3+5+7+9$ となります。

和の記号 $\Sigma$ の性質

$c, p, q$ は $k$ に無関係な定数とします。$\Sigma$ には、計算を楽にする以下の性質があります。

  1. $\displaystyle \sum_{k=1}^n c = nc$
  2. $\displaystyle \sum_{k=1}^n (a_k + b_k) = \sum_{k=1}^n a_k + \sum_{k=1}^n b_k$
  3. $\displaystyle \sum_{k=1}^n p a_k = p \sum_{k=1}^n a_k$
  4. 特に:$\displaystyle \sum_{k=1}^n (p a_k + q b_k) = p \sum_{k=1}^n a_k + q \sum_{k=1}^n b_k$

これらの性質は、定義に従って書き下してみると簡単に証明できます。

【証明】性質1

$\sum_{k=1}^n c$ を書き下します。$k=1$ から $n$ まで変化させますが、項は常に定数 $c$ です。

\[ \sum_{k=1}^n c = \underbrace{c + c + \cdots + c}_{n\text{個}} \]

同じ数 $c$ を $n$ 個足すので、かけ算の定義より:

\[ = nc \]
【証明】性質2

$\sum_{k=1}^n (a_k + b_k)$ を書き下します。

\[ (a_1 + b_1) + (a_2 + b_2) + \cdots + (a_n + b_n) \]

足し算は順番を入れ替えてもよいので、$a$ のグループと $b$ のグループに分けます。

\[ = (a_1 + a_2 + \cdots + a_n) + (b_1 + b_2 + \cdots + b_n) \] \[ = \sum_{k=1}^n a_k + \sum_{k=1}^n b_k \]
【証明】性質3

$\sum_{k=1}^n p a_k$ を書き下します。

\[ p a_1 + p a_2 + \cdots + p a_n \]

すべての項に共通している定数 $p$ でくくります(因数分解)。

\[ = p (a_1 + a_2 + \cdots + a_n) \] \[ = p \sum_{k=1}^n a_k \]
💡 $\Sigma$ の性質が意味すること

これらの公式は一見難しそうですが、日常的な言葉に直すと直感的に理解できます。

  • 性質1(定数の和):
    「一定の値 $c$ を $n$ 個集めて合計する」のは、「$c$ に $n$ を掛ける」のと同じです。
  • 性質2(和の分割):
    「AとBを足してから合計する」のは、「Aの合計とBの合計を後から足す」のと同じです。
  • 性質3(定数倍の移動):
    「すべての項を $p$ 倍してから合計する」のは、「合計を出してから最後に $p$ 倍する」のと同じです。
  • 性質4(線形性):
    性質2と3の合わせ技です。数列の足し引きや定数倍は、シグマ記号の中で自由に分解したり外に出したりできるという、計算上非常に便利な性質です。
【証明】性質4

$\sum_{k=1}^n (p a_k + q b_k)$ に対して、まず性質2を適用して和を分割します。

\[ \sum_{k=1}^n (p a_k + q b_k) = \sum_{k=1}^n p a_k + \sum_{k=1}^n q b_k \]

次に、それぞれの項に対して性質3を適用し、定数 $p, q$ をシグマの前に出します。

\[ = p \sum_{k=1}^n a_k + q \sum_{k=1}^n b_k \]

2. 各種 $\Sigma$ 公式の導出

ここからは、標準的な方法で公式を証明してみましょう。

① $\sum k$ の公式

2次式の恒等式 $(k+1)^2 - k^2 = 2k + 1$ を使います。この式の両辺で $k=1, 2, \dots, n$ までの和をとります。

\[ \sum_{k=1}^n \{(k+1)^2 - k^2\} = \sum_{k=1}^n (2k + 1) \]

左辺は途中の項が相殺され $(n+1)^2 - 1^2$ となります。右辺は性質を利用して $2\sum k + n$ と分解できます。

\[ (n+1)^2 - 1 = 2 \sum_{k=1}^n k + n \] \[ n^2 + 2n = 2 \sum_{k=1}^n k + n \] \[ 2 \sum_{k=1}^n k = n^2 + n = n(n+1) \]
\[ \sum_{k=1}^n k = \frac{1}{2}n(n+1) \]
💡 2次式の恒等式の展開

左辺の $(k+1)^2$ を展開して計算すると右辺になります。

\[ \begin{aligned} (k+1)^2 - k^2 &= (k^2+2k+1) - k^2 \\ &= 2k+1 \end{aligned} \]
💡 ① $\sum k$ の直感的な別解

$\sum k$ の公式は、項を逆順にして足し合わせる方法でも簡単に証明できます。等差数列の和の公式を導く際にもよく使われる有名な手法です。

まず、元の和をそのまま書きます。

\[ \sum_{k=1}^n k = 1 + 2 + \cdots + (n-1) + n \]

次に、同じ和を逆順にして下に並べます。

\[ \sum_{k=1}^n k = n + (n-1) + \cdots + 2 + 1 \]

この2つの式を縦に足し合わせると、各列の和がすべて $(n+1)$ になります。項数は全部で $n$ 個あるので、

\[ 2 \sum_{k=1}^n k = \underbrace{(n+1) + (n+1) + \cdots + (n+1)}_{n\text{個}} \] \[ 2 \sum_{k=1}^n k = n(n+1) \]

よって、両辺を2で割ることで公式が得られます。

\[ \sum_{k=1}^n k = \frac{1}{2}n(n+1) \]
② $\sum k^2$ の公式

3次式の恒等式 $(k+1)^3 - k^3 = 3k^2 + 3k + 1$ を使います。この式の両辺で $k=1$ から $n$ までの和をとります。

\[ \sum_{k=1}^n \{(k+1)^3 - k^3\} = \sum_{k=1}^n (3k^2 + 3k + 1) \]

左辺は途中の項が相殺され $(n+1)^3 - 1^3$ になります。右辺は性質を利用してシグマを分配します。

\[ (n+1)^3 - 1 = 3 \sum_{k=1}^n k^2 + 3 \sum_{k=1}^n k + \sum_{k=1}^n 1 \]

左辺を展開し、右辺には $\sum k = \frac{1}{2}n(n+1)$ と $\sum 1 = n$ を代入します。

\[ n^3 + 3n^2 + 3n = 3 \sum_{k=1}^n k^2 + \frac{3}{2}n(n+1) + n \]

これを $3 \sum k^2$ について解き、整理します。

\[ 3 \sum_{k=1}^n k^2 = n^3 + 3n^2 + 2n - \frac{3}{2}n(n+1) \] \[ = \frac{n}{2} \{ 2(n^2 + 3n + 2) - 3(n+1) \} \] \[ = \frac{n}{2} ( 2n^2 + 6n + 4 - 3n - 3 ) \] \[ = \frac{n}{2} ( 2n^2 + 3n + 1 ) = \frac{n(n+1)(2n+1)}{2} \]

最後に両辺を $3$ で割ることで、公式が導かれます。

\[ \sum_{k=1}^n k^2 = \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \]
💡 3次式の恒等式の展開

証明の起点となる式は、3乗の展開公式から導かれます。左辺を展開して整理します。

\[ \begin{aligned} (k+1)^3 - k^3 &= (k^3 + 3k^2 + 3k + 1) - k^3 \\ &= 3k^2 + 3k + 1 \end{aligned} \]
! $\sum 1$ の計算に注意

$\sum_{k=1}^n 1$ は「$1$ を $n$ 回足す」という意味なので、結果は $n$ になります。これは性質1($\sum c = nc$)で $c=1$ とした場合に当たります。

③ $\sum k^3$ の公式

4次式の恒等式 $(k+1)^4 - k^4 = 4k^3 + 6k^2 + 4k + 1$ を使います。この式の両辺で $k=1$ から $n$ までの和をとります。

\[ \sum_{k=1}^n \{(k+1)^4 - k^4\} = \sum_{k=1}^n (4k^3 + 6k^2 + 4k + 1) \]

左辺は相殺され $(n+1)^4 - 1^4$ になります。これを $\cdots ①$ とします。

\[ (n+1)^4 - 1 = 4 \sum_{k=1}^n k^3 + 6 \sum_{k=1}^n k^2 + 4 \sum_{k=1}^n k + \sum_{k=1}^n 1 \quad \cdots ① \]

①式の左辺を展開し、右辺には既に導いた $\sum k^2$、$\sum k$ の公式と $\sum 1 = n$ を代入します。

\[ n^4 + 4n^3 + 6n^2 + 4n = 4 \sum_{k=1}^n k^3 + 6 \cdot \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) + 4 \cdot \frac{1}{2}n(n+1) + n \]

①式の右辺のシグマ以外の部分を展開して計算します。

\[ n(n+1)(2n+1) + 2n(n+1) + n \] \[ = (2n^3 + 3n^2 + n) + (2n^2 + 2n) + n \] \[ = 2n^3 + 5n^2 + 4n \]

これを元の①式の左辺に移項し、$4 \sum k^3$ を求めます。

\[ 4 \sum_{k=1}^n k^3 = (n^4 + 4n^3 + 6n^2 + 4n) - (2n^3 + 5n^2 + 4n) \] \[ 4 \sum_{k=1}^n k^3 = n^4 + 2n^3 + n^2 \]

右辺を因数分解します。

\[ n^4 + 2n^3 + n^2 = n^2(n^2 + 2n + 1) = n^2(n+1)^2 \]

両辺を $4$ で割ると、公式が導かれます。

\[ \sum_{k=1}^n k^3 = \frac{1}{4}n^2(n+1)^2 = \left\{ \frac{1}{2}n(n+1) \right\}^2 \]
💡 4次式の恒等式の展開

これも4乗の展開公式(パスカルの三角形の係数 $1, 4, 6, 4, 1$)から導かれます。展開して $k^4$ を引きます。

\[ \begin{aligned} (k+1)^4 - k^4 &= (k^4 + 4k^3 + 6k^2 + 4k + 1) - k^4 \\ &= 4k^3 + 6k^2 + 4k + 1 \end{aligned} \]
💡 一般化への道

この手法を繰り返せば、$\sum k^4, \sum k^5 \dots$ とどんな自然数の累乗の和も原理的には求められます。(計算は非常に大変になりますが…)

3. 【解説】証明に「恒等式」が突然現れる理由

教科書で $\sum k^2$ などの公式を証明した際、突然 $(k+1)^3 - k^3 = 3k^2 + 3k + 1$ という恒等式が天下り的に現れて戸惑った経験はありませんか?

実は、これは和を求めるための最も強力なテクニックである「階差の和(望遠鏡和)」を作り出すためなのです。

魔法の形: f(k+1) - f(k) k=1 のとき: f(2) - f(1) k=2 のとき: f(3) - f(2) k=3 のとき: f(4) - f(3) ... ... k=n のとき: f(n+1) - f(n) これらを全て足すと... f(n+1) - f(1)

このように、$f(k+1) - f(k)$ という形を作って足し合わせると、1節の証明で見たように途中の項が斜めに綺麗に相殺され、「最後と最初」だけが残るのです。

$\sum k$ や $\sum k^2$ を求めるには、この $f(k+1) - f(k)$ を展開したときに、欲しい項($k$ や $k^2$)が現れるような $f(k)$ を逆算して見つけているから、あの恒等式を「突然」使うことになるわけです。

🧠 思考のポイント

公式の証明で重要なのは「求めたい次数より1つ高い次数の恒等式を用意する」ことです。

なぜなら、$f(k+1) - f(k)$ を展開したとき、最高次の項は必ず相殺されて消え、1つ下の次数の項が現れるからです。たとえば、2次式の和 $\sum k^2$ を求めたければ、3次式の差 $(k+1)^3 - k^3$ を計算することで、初めて $3k^2$ という2次の項を作り出すことができます。

  • $\sum k$ を求めたい $\to (k+1)^2 - k^2$
  • $\sum k^2$ を求めたい $\to (k+1)^3 - k^3$
  • $\sum k^3$ を求めたい $\to (k+1)^4 - k^4$

4. 「級数」とは何か?(無限の世界への入り口)

ここから先は、和を「無限大」まで足し続ける世界に入ります。その前に、少し言葉の整理をしておきましょう。

「数列」「和」「級数」の違い

  • 数列 (Sequence): 数が一定のルールでカンマ区切りで並んだもの。
    (例:等比数列)
    \[ 1, \frac{1}{2}, \frac{1}{4}, \frac{1}{8}, \dots \]
  • 数列の和 / 部分和 (Partial Sum): 数列の最初から第 \( n \) 項までを足した「有限」の計算結果。
    (例:等比数列の和)
    \[ \sum_{k=1}^{\textcolor{#dc2626}{n}} \left(\frac{1}{2}\right)^{k-1} = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \cdots + \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} = 2 \left(1 - \frac{1}{2^n}\right) \]
  • 級数 / 無限級数 (Series): 無限に続く数列を「+」で結んで、無限に足し合わせる式やその概念のこと。
    (例:等比級数)
    \[ \sum_{k=1}^{\textcolor{#dc2626}{\infty}} \left(\frac{1}{2}\right)^{k-1} = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \cdots + \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} \textcolor{#dc2626}{+ \cdots} = 2 \]

単に数が並んでいる状態が「数列」、それを無限に足していく行為やその式自体を「(無限)級数」と呼びます。

💡 $\Sigma$ と $\lim$ の関係

$\sum_{k=1}^\infty$ という表記は、数学的には「まず第 $n$ 項までの部分和を計算し、その後で $n$ を無限大に飛ばす」という極限の操作を省略したものです。

\[ \sum_{k=1}^\infty \left(\frac{1}{2}\right)^{k-1} = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^n \left(\frac{1}{2}\right)^{k-1} \]

この2つの式は全く同じ意味を表しています。

5. 発展:部分和が「数式で示せない」数列の謎

$\sum k$ や $\sum k^2$、$\sum k^3$ の部分和は、$n$ を使ったきれいな多項式で表せました。しかし、逆数の和である以下の3つの数列の部分和を考えてみましょう。

\[ S_n = \sum_{k=1}^n \frac{1}{k} = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \cdots + \frac{1}{n} \] \[ T_n = \sum_{k=1}^n \frac{1}{k^2} = 1 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \cdots + \frac{1}{n^2} \] \[ U_n = \sum_{k=1}^n \frac{1}{k^3} = 1 + \frac{1}{8} + \frac{1}{27} + \cdots + \frac{1}{n^3} \]

結論:部分和を閉じた数式で示すことはできない

残念ながら、これら $S_n, T_n, U_n$ を、$n$ の分数式やルート、指数関数などを組み合わせた「簡単な数式(初等関数による閉じた式)」で表すことはできません。

【示せない理由】
和が綺麗な式で求まる(=閉じた式で書ける)ための本質的な条件は、第3章で見たように「都合よく相殺される $f(k+1)-f(k)$ の形が存在すること」です。
しかし、$\frac{1}{k}$ や $\frac{1}{k^2}, \frac{1}{k^3}$ などに対しては、差をとってその形になるような、私たちが知っている簡単な関数 $f(k)$ が数学的に存在しないことが分かっています。そのため、シグマ記号を外した単純な公式を作ることは不可能なのです。

! 近似式なら存在する

正確な式はありませんが、近似式なら存在します。例えば $\sum_{k=1}^n \frac{1}{k} \approx \log_e n + \gamma$($\gamma$ はオイラー定数)と近似できることが大学数学で証明されます。

6. $\sum \frac{1}{k}$(調解級数)は発散する!

部分和の式は求まりませんが、「$n$ を無限大に飛ばしたとき(無限級数)にどうなるか?」は分かっています。

足していく数字 $\frac{1}{n}$ はどんどん $0$ に近づいていくので、一見するとどこかの値で収束しそうに思えます。しかし、驚くべきことに無限大に発散します。中世の数学者ニコル・オレームが考えた、非常に鮮やかな証明を見てみましょう。

\( S = \)
\( 1 \)
\( + \)
\( \frac{1}{2} \)
\( + \)
\( \frac{1}{3} + \frac{1}{4} \)
\( + \)
\( \frac{1}{5} + \frac{1}{6} + \frac{1}{7} + \frac{1}{8} \)
\( + \)
\( \cdots \)
\( > \)
\( 1 \)
\( + \)
\( \frac{1}{2} \)
\( + \)
\( \frac{1}{4} + \frac{1}{4} \)
\( + \)
\( \frac{1}{8} + \frac{1}{8} + \frac{1}{8} + \frac{1}{8} \)
\( + \)
\( \cdots \)
\( = \)
\( 1 \)
\( + \)
\( \frac{1}{2} \)
\( + \)
\( \frac{1}{2} \)
\( + \)
\( \frac{1}{2} \)
\( + \)
\( \cdots \)

図のように、項をグループ化して「自分より小さくて都合の良い数」に置き換えます。

  • $\frac{1}{3} + \frac{1}{4} > \frac{1}{4} + \frac{1}{4} = \frac{1}{2}$
  • $\frac{1}{5} + \frac{1}{6} + \frac{1}{7} + \frac{1}{8} > \frac{1}{8} + \frac{1}{8} + \frac{1}{8} + \frac{1}{8} = \frac{1}{2}$

このようにグループ化していくと、元の級数は $1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{2} + \frac{1}{2} + \cdots$ よりも大きいことが分かります。
$\frac{1}{2}$ を無限回足せば当然無限大になります。

それよりも常に大きくなる元の調和級数も、当然無限大に発散すると証明できるのです(これを「追い出しの原理」と呼びます)。

\[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k} = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \cdots = \infty \]
💡 1/2を無限回足せば無限大になる理由

ある正の定数 $c$(ここでは $c=\frac{1}{2}$)を $n$ 回足すと、その和は $nc$ となります。ここで $n$ を無限大に飛ばす極限 $\lim_{n \to \infty} nc$ を考えると、$c$ がどんなに小さな正の数であっても、計算結果は必ず正の無限大($\infty$)に発散します。

💡 直感とのズレ

足す数が $0$ に近づいても、その「近づき方のスピード」が遅いと、チリも積もって無限大になってしまうという、無限の面白さを示す代表例です。

7. $\sum \frac{1}{k^2}$ が $\frac{\pi^2}{6}$ に収束する証明(バーゼル問題)

$\frac{1}{k}$ は発散しましたが、二乗した $\frac{1}{k^2}$ はギリギリ収束します。しかし、その値が「円周率 $\pi$ の二乗」に関係するという驚愕の事実を証明したのが、天才数学者レオンハルト・オイラーです。
ここでは、大学数学の「マクローリン展開」の形を天下り的に認め、オイラーの大胆な発想をトレースしてみましょう。

前提知識:$\sin x$ の多項式展開

$\sin x$ は無限に続く多項式で表すことができます。

\[ \sin x = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \frac{x^7}{7!} + \cdots \]

両辺を $x$ で割ります。

\[ \frac{\sin x}{x} = 1 - \frac{x^2}{3!} + \frac{x^4}{5!} - \frac{x^6}{7!} + \cdots \quad \cdots ① \]
STEP 1: 方程式 $\frac{\sin x}{x} = 0$ の解から「因数分解」を作る

まず、方程式 $\frac{\sin x}{x} = 0$ の解を考えます。分子が $0$ になればよいので $\sin x = 0$ を解くと、$x = \pm\pi, \pm2\pi, \pm3\pi, \dots$ となります。(分母があるため $x \neq 0$)

高校数学の「因数定理」によると、方程式の解が $x = \alpha$ なら、その式は $(x-\alpha)$ を因数に持ちます。
しかし、今回因数分解したい式①の定数項($x$ を含まない最初の項)は $1$ です。単純に $(x-\pi)(x+\pi)\dots$ と因数を作ると、それらを掛け合わせたときの定数項が $1$ になりません。

【定数項を $1$ にする工夫】
解の一つである $x=\pi$ で考えます。方程式 $x=\pi$ を変形して、定数項が $1$ になる因数を作り出します。
$x = \pi$ の両辺を $\pi$ で割ると、$\frac{x}{\pi} = 1$
移項すると、$1 - \frac{x}{\pi} = 0$
これで、解が $x=\pi$ でありながら、定数項($x=0$ を代入したときの値)が $1$ になる因数 $\left(1 - \frac{x}{\pi}\right)$ を作ることができました。
方程式の他の解($x=-\pi, 2\pi, -2\pi, \dots$)についても、全く同じようにして $\left(1 + \frac{x}{\pi}\right)$, $\left(1 - \frac{x}{2\pi}\right)$, $\left(1 + \frac{x}{2\pi}\right) \dots$ という因数を作ります。

これらの因数を無限に掛け合わせることで、式①は次のように因数分解できるとオイラーは考えました。

\[ \frac{\sin x}{x} = \left(1 - \frac{x}{\pi}\right)\left(1 + \frac{x}{\pi}\right)\left(1 - \frac{x}{2\pi}\right)\left(1 + \frac{x}{2\pi}\right) \cdots \]

さらに、$(1-A)(1+A) = 1-A^2$ の公式を使って隣同士のペアをまとめます。

\[ \frac{\sin x}{x} = \left(1 - \frac{x^2}{\pi^2}\right)\left(1 - \frac{x^2}{4\pi^2}\right)\left(1 - \frac{x^2}{9\pi^2}\right) \cdots \quad \cdots ② \]
STEP 2: 係数比較という魔法

式①の $x^2$ の係数は $-\frac{1}{3!} = -\frac{1}{6}$ です。

一方、式②を展開したときに $x^2$ が作られるのは、「どれか一つのカッコから $-\frac{x^2}{k^2\pi^2}$ を選び、他の全てのカッコからは $1$ を選んで掛け合わせたもの」を集めたときです。

\[ -\frac{x^2}{\pi^2} - \frac{x^2}{4\pi^2} - \frac{x^2}{9\pi^2} - \cdots = - \frac{x^2}{\pi^2} \left( 1 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \cdots \right) \]

つまり、式②の $x^2$ の係数は $-\frac{1}{\pi^2} \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^2}$ となります。

係数をイコールで結ぶ

式①と式②は全く同じ式なので、$x^2$ の係数も一致するはずです。係数をイコールで結ぶと、

\[ -\frac{1}{6} = -\frac{1}{\pi^2} \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^2} \]

となる。両辺に \( -\pi^2 \) を掛けると、歴史的発見が姿を現します!

\[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^2} = 1 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \cdots = \frac{\pi^2}{6} \]
💡 マクローリン展開とは?

関数 $f(x)$ を $x=0$ の周りで多項式として表す強力な定理です。

\[ f(x) = f(0) + \frac{f'(0)}{1!}x + \frac{f''(0)}{2!}x^2 + \cdots \]

$\sin x$ は微分を繰り返すと $\cos x \to -\sin x \to -\cos x \dots$ となり、$x=0$ を代入すると $0 \to 1 \to 0 \to -1 \dots$ となるため、奇数乗の項だけが交互の符号で現れます。

! 厳密性についての補足

オイラーのこの証明は非常に美しく直感的ですが、「無限次多項式でも因数定理がそのまま成り立つのか?」という点に数学的な飛躍があります。

後にオイラー自身や他の数学者によって、複素関数論(ワイエルシュトラスの因数分解定理など)を用いてこの操作が正当であることが厳密に証明されました。数学の歴史においても重要なステップです。

💡 何故ここに $\pi$ が?

純粋な整数の逆数の二乗の和に、円周率 $\pi$ が現れる。一見無関係に見える「整数」と「幾何学(円)」が、三角関数 $\sin x$ という橋渡しによって深く繋がっていることを示す、数学の美しさを象徴する公式です。

8. $\sum \frac{1}{k^3}$ はどうなるのか?(アペリーの定数)

$\sum \frac{1}{k^2}$ が $\frac{\pi^2}{6}$ という美しい値に収束したなら、「$\sum \frac{1}{k^3}$ も $\pi^3$ を使った綺麗な値になるのでは?」と期待したくなります。

\[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^3} = 1 + \frac{1}{8} + \frac{1}{27} + \cdots \]

この無限級数も値としては収束し、およそ $1.202\dots$ になることが分かっています。

しかし、オイラーをもってしても、この値を $\pi$ などの既存の定数を用いて簡単な「閉じた式」で表すことはできませんでした。時は流れ、1978年にフランスの数学者ロジェ・アペリーが、この値が「無理数である(分数で表せない)」ことをついに証明しました。そのため、この値は現在「アペリーの定数 $\zeta(3)$」と呼ばれています。

美しい数式が存在する世界と、数式では表しきれない世界。数学の奥深さがここにあります。

\[ \sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k^3} = 1 + \frac{1}{8} + \frac{1}{27} + \cdots = \zeta(3) \]