なぜその計算ルールになるのか? 平方根の計算規則の完全証明
乗法・除法の証明から、加法・減法における「よくある間違い」の理由を、文字式の観点や高校数学の知識を交えて徹底解説します。
1. 平方根の乗法と除法の証明
まずは、根号(ルート)の掛け算と割り算が、なぜルートの中で計算できるのかを証明します。平方根の基本定義である「2乗するとその数になる」という性質を利用します。(前提として、\( a > 0 \)、\( b > 0 \) とします)
\( \sqrt{a} \times \sqrt{b} \) を2乗して、どのような値になるかを確認します。
\( (\sqrt{a})^2 = a \)、\( (\sqrt{b})^2 = b \) なので、
つまり、\( \sqrt{a} \times \sqrt{b} \) は「2乗すると \( ab \) になる数」であることがわかりました。
また、\( a > 0 \), \( b > 0 \) のとき \( \sqrt{a} > 0 \), \( \sqrt{b} > 0 \) であるため、その積 \( \sqrt{a} \times \sqrt{b} \) も正の数になります。
ここで平方根の定義より、
「2乗すると \( ab \) になる正の数」は \( \sqrt{ab} \) と表すことができます(※右側の解説「💡 平方根の定義の再確認」を参照)。
したがって、以下の公式が成り立ちます。
✏️ 具体例で確認しよう
\( a = 2 \)、\( b = 3 \) とした場合、公式により以下のように計算できます。
正の数 \( A \) の平方根は \( \pm\sqrt{A} \) であり、そのうち正の平方根を \( \sqrt{A} \) と表します。
したがって、\( ab \) の正の平方根は \( \sqrt{ab} \) となります。
左の証明では、この図の「\(x\)」が \( \sqrt{a} \times \sqrt{b} \) に対応しており、「\(A\)」が \( ab \) に対応しています。
ルートの中身は負になってはいけないため、最初から \( a > 0, b > 0 \) という条件がついています。高校生になると負の数の平方根(虚数)を学びますが、中学数学の範囲では正の数のみを扱います。
\( \frac{\sqrt{a}}{\sqrt{b}} \) を2乗して、どのような値になるかを確認します。
\( (\sqrt{a})^2 = a \)、\( (\sqrt{b})^2 = b \) なので、
つまり、\( \frac{\sqrt{a}}{\sqrt{b}} \) は「2乗すると \( \frac{a}{b} \) になる数」であることがわかりました。
また、\( a > 0 \), \( b > 0 \) のとき \( \sqrt{a} > 0 \), \( \sqrt{b} > 0 \) であるため、その商 \( \frac{\sqrt{a}}{\sqrt{b}} \) も正の数になります。
乗法のときと同様に平方根の定義より、
「2乗すると \( \frac{a}{b} \) になる正の数」は \( \sqrt{\frac{a}{b}} \) と表すことができます(※右側の解説「💡 平方根の定義の再確認」を参照)。
したがって、以下の公式が成り立ちます。
✏️ 具体例で確認しよう
\( a = 6 \)、\( b = 2 \) とした場合、公式により以下のようにルートの中で割り算ができます。
正の数 \( A \) の平方根は \( \pm\sqrt{A} \) であり、そのうち正の平方根を \( \sqrt{A} \) と表します。
したがって、\( \frac{a}{b} \) の正の平方根は \( \sqrt{\frac{a}{b}} \) となります。
左の証明では、この図の「\(x\)」が \( \frac{\sqrt{a}}{\sqrt{b}} \) に対応しており、「\(A\)」が \( \frac{a}{b} \) に対応しています。
2. なぜ \( \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a+b} \)、\( \sqrt{a} - \sqrt{b} = \sqrt{a-b} \) ではないのか?
掛け算と割り算はルートの中で計算できましたが、足し算と引き算はルートの中で計算してはいけません。
つまり、\( \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a+b} \) や \( \sqrt{a} - \sqrt{b} = \sqrt{a-b} \) とするのは典型的な間違いです。
【絶対にやってはいけない計算】
これが成り立たない理由は、さまざまな視点から証明・説明することができます。
(1) 具体的な数(反例)による証明
数学では「反例(成り立たない具体的な例)」を一つ挙げるだけで、「その公式は間違っている」と完全に証明できます。
\( a = 9 \), \( b = 16 \) を代入して考えてみましょう。
【左辺の計算】 ルートをそれぞれ計算してから足す
\( \sqrt{9} + \sqrt{16} = 3 + 4 = 7 \)
【右辺の計算】 ルートの中で先に足す
\( \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5 \)
左辺は 7、右辺は 5 となり、結果が異なります。よって \( \sqrt{a} + \sqrt{b} \neq \sqrt{a+b} \) であることが証明されました。
\( a = 25 \), \( b = 9 \) を代入して考えてみましょう。
【左辺の計算】 ルートをそれぞれ計算してから引く
\( \sqrt{25} - \sqrt{9} = 5 - 3 = 2 \)
【右辺の計算】 ルートの中で先に引く
\( \sqrt{25 - 9} = \sqrt{16} = 4 \)
左辺は 2、右辺は 4 となり、結果が異なります。よって \( \sqrt{a} - \sqrt{b} \neq \sqrt{a-b} \) であることが証明されました。
平方根の性質で迷ったときは、ルートが綺麗に外れる数(平方数である 1, 4, 9, 16, 25... など)を代入してみるのが確実です。
特に「9 と 16 と 25」の組み合わせは反例として非常に便利です。
(2) 文字式の計算と同じ視点から考える
平方根の足し算・引き算は、「文字式の計算ルール」と完全に同じだと考えるとスッキリ理解できます。
① ルートの中身が「同じ」場合
文字式で \( 2x + 3x = 5x \) と計算できるように、ルートの中身が同じ場合は係数同士を足し引きできます。
これは、「\(\sqrt{2}\) という箱が2個と、\(\sqrt{2}\) という箱が3個あるから、合わせて5個になる」という考え方です。
② ルートの中身が「違う」場合
文字式で \( x + y \) は、種類が違うためこれ以上計算できず、そのまま答えになります。平方根も全く同じです。
ルートの中身が違う数字は、\( x \) と \( y \) のように「全く別の種類の文字」として扱うのが鉄則です。
だからこそ、無理やり中身を足して \( \sqrt{5} \) にしてはいけないのです。
(3) 正方形の面積図を使った視覚的な証明
1辺の長さがそれぞれ \( \sqrt{2} \)、\( \sqrt{3} \)、\( \sqrt{5} \) の正方形を考えます。それぞれの面積は \( 2 \)、\( 3 \)、\( 5 \) になります。
もし仮に \( \sqrt{2} + \sqrt{3} = \sqrt{5} \) だとすると、「\( \sqrt{2} \) の辺と \( \sqrt{3} \) の辺を一直線に繋ぎ合わせた長さ」を1辺とする正方形の面積は、ちょうど \( 5 \) になるはずです。
しかし、実際に図を描いて面積を比較してみるとどうなるでしょうか。
図を見ると、面積が2の正方形と面積が3の正方形に加えて、面積が \( \sqrt{6} \) の長方形が2つも余分に含まれていることが一目でわかります。
全体の面積は \( 5 + 2\sqrt{6} \) となり、\( 5 \) よりもはるかに大きくなります。したがって、その1辺の長さである \( \sqrt{2} + \sqrt{3} \) が \( \sqrt{5} \) になることは絶対にありません。
この面積図は、(5)で解説する展開公式 \( (x+y)^2 = x^2 + 2xy + y^2 \) の図形的意味そのものです。
余分な2つの長方形が、式の \( 2xy \) (この場合は \( 2\sqrt{6} \))の部分に対応しています。
(4) 図形(三平方の定理)からの視点
この先で学ぶ「三平方の定理」を図形を使って視覚的に確認すると、ルートの中を足してはいけない理由がさらに直感的に納得できるはずです。
「2点間の最短距離は直線である」という事実からも、斜辺の長さ(\(\sqrt{9+16}\))と、縦横の辺を足した長さ(\(\sqrt{9}+\sqrt{16}\))が同じになるわけがないことが視覚的に分かります。
直角三角形の直角をはさむ2辺の長さを \( a \)、\( b \)、斜辺の長さを \( c \) としたとき、以下の関係が成り立つ定理です(別名:ピタゴラスの定理)。
左の図の場合、直角をはさむ2辺が \( 4 \)(\( =\sqrt{16} \))と \( 3 \)(\( =\sqrt{9} \))なので、斜辺の長さの2乗は \( 4^2 + 3^2 = 16 + 9 = 25 \) になります。
よって、斜辺の長さは \( \sqrt{25} = 5 \) だと計算できます。
(5) 高校数学「二重根号」の視点から完全論破する
最後に、高校数学で学ぶ「二重根号」の観点から、なぜ \( \sqrt{a} + \sqrt{b} \) が \( \sqrt{a+b} \) にならないのかを数式で厳密に証明します。
乗法の証明と同じように、式全体を2乗して展開してみましょう。(乗法公式 \( (x+y)^2 = x^2 + 2xy + y^2 \) を使います)
ここで、両辺の正の平方根をとります。(\( \sqrt{a} + \sqrt{b} > 0 \) であるため、そのままルートを被せます)
この式をよく見てください。右辺のルートの中身は \( a+b \) だけではなく、\( + 2\sqrt{ab} \) という余分なオマケ(交差項)が必ず存在しています。
この \( 2\sqrt{ab} \) があるせいで、絶対に \( \sqrt{a+b} \) と等しくなることはないのです。
右辺の \( \sqrt{a+b+2\sqrt{ab}} \) のように、ルートの中にさらにルートが含まれる形を「二重根号」と呼びます。
高校数学では、この複雑な形を左辺の \( \sqrt{a} + \sqrt{b} \) のようにスッキリさせる(二重根号を外す)計算を学びます。
引き算の場合も同様です。(ただし、ルートの中が負にならないよう \( a > b > 0 \) とします)
ここで、両辺の正の平方根をとります。(\( a > b > 0 \) より \( \sqrt{a} - \sqrt{b} > 0 \) であるため、そのままルートを被せます)
こちらにも \( - 2\sqrt{ab} \) という余分なオマケが存在するため、絶対に \( \sqrt{a-b} \) と等しくなることはありません。
高校数学の式展開を通して見ると、「平方根の加減法はルートの中で計算してはいけない」という事実が、展開公式から必然的に導き出される論理であることが分かります。
\( a > b > 0 \) のとき、なぜ \( \sqrt{a} > \sqrt{b} \)(つまり \( \sqrt{a} - \sqrt{b} > 0 \))になるのでしょうか。
正の数同士では、「2乗した数が大きいほど、元の数も大きい」という性質があります。
前提として \( a > b \) なので、2乗した結果は \( (\sqrt{a})^2 > (\sqrt{b})^2 \) となります。
したがって、元の数も \( \sqrt{a} > \sqrt{b} \) となり、\( \sqrt{a} - \sqrt{b} > 0 \) であることが分かります。
(6) 【発展】方程式 \( \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a+b} \) や \( \sqrt{a} - \sqrt{b} = \sqrt{a-b} \) を満たす数はある?
ここまで「絶対に成り立たない」と解説してきましたが、実はこれらの方程式を満たす \( a, b \) が存在します。
① 加法(\( \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a+b} \))の場合
方程式 \( \sqrt{a} + \sqrt{b} = \sqrt{a+b} \) が成り立つと仮定して、両辺を2乗してみます。
左辺を展開し、右辺のルートを外します。
両辺から \( a \) と \( b \) を引きます。
両辺を2で割ります。
ルートの中身が \( 0 \) にならなければならないので、
かけて \( 0 \) になるということは、「\( a = 0 \) または \( b = 0 \)」でなければなりません。(もちろん、両方が \( 0 \) でも成り立ちます)
実際に代入して計算してみましょう。
【左辺の計算】
\( \sqrt{0} + \sqrt{5} = 0 + \sqrt{5} = \sqrt{5} \)
【右辺の計算】
\( \sqrt{0 + 5} = \sqrt{5} \)
左辺と右辺が見事に一致しました。
② 減法(\( \sqrt{a} - \sqrt{b} = \sqrt{a-b} \))の場合
引き算の場合も同じように考えてみましょう(ルートの中が負にならないよう、\( a \geqq b \geqq 0 \) とします)。
方程式が成り立つと仮定して、両辺を2乗します。
左辺を展開し、右辺のルートを外します。
両辺から \( a \) と \( b \) を引いて整理します。
両辺を \(-2\) で割ります。
両辺を2乗します。
移項して因数分解します。
かけて \( 0 \) になるということは、「\( b = 0 \) または \( a = b \)」でなければなりません。
【\( b = 0 \) の場合(例:\( a=5, b=0 \))】
左辺:\( \sqrt{5} - \sqrt{0} = \sqrt{5} \)
右辺:\( \sqrt{5 - 0} = \sqrt{5} \)
【\( a = b \) の場合(例:\( a=5, b=5 \))】
左辺:\( \sqrt{5} - \sqrt{5} = 0 \)
右辺:\( \sqrt{5 - 5} = 0 \)
どちらの条件でも、左辺と右辺が見事に一致しました。
最初の乗法・除法の証明の冒頭で、わざわざ「前提として \( a > 0, b > 0 \) とします」と条件をつけていたのは、まさにこれらのような「\( 0 \) が関わる例外」を排除するためだったのです。