本質から理解する数学・図解解説

「なぜ基準が違うのか?」 $x=-1$ と $x=1$ での $\tan\theta$
第2・第3象限における値の求め方

なぜ教科書では、直感的な動径側の $x=-1$ ではなく、$x=1$ での $\tan\theta$(直線 $x=1$ 上の $y$ 座標)を基準にするのか。その数学的必然性を図解を用いて深く考察します。

1. はじめに:立ちはだかる「違解感」

$\theta$ が $90^\circ$ を超える鈍角へと拡張されたとき、$\tan\theta$ を図形的にどう求めるかが問題になります。
ここでは、具体的な角度として $\theta = 150^\circ$(第2象限) の場合を図で確認してみましょう。

$x = -1$
$x = 1$
$150^\circ$
$Q(-1, y_1)$
$1$
$1/\sqrt{3}$
$R(1, y_2)$
$1$
$1/\sqrt{3}$
$x$
$y$
$O$

上図のように、第2象限にある角度を考えるとき、直感的には動径と同じ側にある青色の三角形($x = -1$ 基準)を作るのが自然に思えます。
しかし、教科書では反対側にある赤色の三角形($x = 1$ 基準)を採用します。赤色の三角形は動径を逆方向に延長した場所にあり、図形的に少し不自然に感じます。

🤔 抱えていた違和感

$x = -1$ 基準(青)の直角三角形(底辺 $= -1$、高さ $= \frac{1}{\sqrt{3}}$)では「底辺がマイナス、高さがプラス」です。

一方、教科書の方法(赤)では「底辺がプラス、高さがマイナス」と符号が完全に逆転しています。結果の $\tan 150^\circ$ は同じになりますが、これは「たまたま計算が合っただけ」ではないのか?という疑問です。

2. 違和感を解消する「合同な三角形」の性質と等式

この「たまたま感」を論理的な必然に変えるのが、図の中に現れる合同な三角形の性質を用いた数式です。

① $x=-1$ 基準の三角形(青)

直線 $x=-1$ との交点 $Q(-1, y_1)$ での $\tan\theta$

$$\tan\theta = \frac{高さ}{底辺} = \frac{y_1}{-1}$$
② $x=1$ 基準の三角形(赤)

直線 $x=1$ との交点 $R(1, y_2)$ での $\tan\theta$

$$\tan\theta = \frac{高さ}{底辺} = \frac{y_2}{1} = y_2$$

原点 $O$、直線 $x=-1$ 上の交点 $Q$、直線 $x=1$ 上の交点 $R$ は、すべて同じ一直線(動径のライン)上に存在します。右の解説にある通り、これらで作られる2つの直角三角形は「合同」です。

2つの図形が合同であり、かつ点 $Q$ と点 $R$ が原点に関して点対称の位置にあることから、直線の傾きを表す以下の等式が成立します。

$$\frac{y_2}{1} = \frac{y_1}{-1} = \tan\theta$$

この等式が意味するのは、直線 $x=1$ 上の $y$ 座標である $y_2$ の符号は、直線 $x=-1$ 上の $y$ 座標 $y_1$ の符号によって必然的に決定される、ということです。

【具体的な値での検証:$\theta = 150^\circ$(第2象限)】

直線 $x=-1$ 上の交点 $Q$ の座標で考えます。

  • $x$ 座標(底辺):$x_1 = -1$
  • $y$ 座標(高さ):$y_1 = \frac{1}{\sqrt{3}}$

これを等式に代入すると、直線 $x=1$ 上の交点の高さ $y_2$ は以下のようになります。

$$y_2 = \frac{y_1}{-1} = \frac{1/\sqrt{3}}{-1} = -\frac{1}{\sqrt{3}}$$

具体的な値を等式に代入することで、直線 $x=1$ 基準における $y_2$ の値($= \tan 150^\circ$)が必然的に $-\frac{1}{\sqrt{3}}$ になることがはっきりと分かります。

📐 2つの直角三角形が合同であることの証明
  • 底辺の長さ: 原点から $x=-1$ までの距離と、原点から $x=1$ までの距離は、ともに $1$ で等しい。
  • 直角: 直線 $x=-1$ と $x=1$ はどちらも $x$ 軸と垂直に交わるため、それぞれの角は $90^\circ$ で等しい。
  • 対頂角: 原点 $O$ において、2つの直線の交差によってできる角(対頂角)は等しい。

よって、「1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しい」ため、青色の三角形と赤色の三角形は完全に合同になります。

3. 第3象限($210^\circ$)での徹底検証

第3象限はさらに直感に反しやすく、「たまたま感」を強く感じやすい場所です。図を見ながら、数式がどのように符号を決定しているか確認しましょう。

$x = -1$
$x = 1$
$210^\circ$
$Q(-1, y_1)$
$1$
$1/\sqrt{3}$
$R(1, y_2)$
$1$
$1/\sqrt{3}$
$x$
$y$
$O$
【具体的な値での検証:$\theta = 210^\circ$(第3象限)】

直線 $x=-1$ 上の交点 $Q(-1, y_1)$ は、第3象限にあるため高さがマイナスです。具体的には以下の値になります。

  • $x$ 座標(底辺):$x_1 = -1$
  • $y$ 座標(高さ):$y_1 = -\frac{1}{\sqrt{3}}$

これを等式に代入すると、直線 $x=1$ 上の交点の高さ $y_2$ が求まります。

$$y_2 = \frac{y_1}{-1} = \frac{-1/\sqrt{3}}{-1} = \frac{1}{\sqrt{3}}$$
💡 自動的な符号補正

左記の計算により、マイナス $\div\ (-1)$ = プラス となり、結果は必然的にプラス($\frac{1}{\sqrt{3}}$)になります。

図を見てもわかる通り、直線 $x=1$ 基準の点 $R$ は、確実に $x$ 軸より上(プラスの領域)に描画されます。

$x=-1$ 基準では「底辺も高さもマイナス」だったものが、$x=1$ 基準では「底辺がプラス($+1$)だから、高さをプラス($y_2 > 0$)にしないと比率が合わない」という形で自動的に補正されているのです。

4. 最終結論

直線 $x=1$ を基準にして求めた $\tan\theta$ の値と符号が、どの象限においても $x=-1$ 基準で考えた場合と完全に一致するのは、決して「たまたま(偶然)」ではありません。

2つの直角三角形が「合同」であり、座標が原点対称であることから導かれる

$$\frac{y_2}{1} = \frac{y_1}{-1} = \tan\theta$$

という等式が根底に存在し、$x=-1$ 上の座標 $y_1$ の符号が、直線 $x=1$ 上の座標 $y_2$ の符号を論理的かつ必然的に決定づけているからです。

🎯 まとめ

「底辺分の高さ」という定義に基づき、数式で基準同士を結びつけることで、直感に頼らずに数学的必然性を導き出すことができます。

このアプローチは、他の数学の定理や公式を深く理解する上でも非常に役立ちます。