なぜ中央線のオレンジ色の電車
甲府まで行かないの?

おなじみの中央線快速。大月までは行くのに、なぜ県庁所在地の甲府へは直通しないのか?その歴史的、地理的、そして技術的な謎に深く迫ります。

歴史の変遷:輸送力増強の波と消えた長距離普通列車

旅情の時代

新宿から甲府・松本方面へ、ボックスシートの115系近郊型電車などが直通。登山や旅行の足として活躍。

混雑の激化

高度経済成長で沿線人口が爆発的に増加。通勤ラッシュが深刻化し、輸送力不足が大きな課題に。

輸送効率の時代

詰め込みの効くロングシートの通勤電車(E電)が主役に。1993年、ついに新宿直通の長距離普通列車が全廃。

立ちはだかる「2つの峠」と人の流れ

東京と甲府の間には、鉄道開業以前から人の往来を阻んできた大きな地理的な壁が存在します。

東京
高尾
大月
甲府
小仏峠
笹子峠

東京 ⇔ 大月【関東との強い結びつき】

小仏峠を越えた山梨県東部(上野原市、大月市)は、歴史的に甲府方面よりも関東との経済的・文化的なつながりが強いエリアです。バブル期には東京への通勤圏として「コモアしおつ」のような大規模ニュータウンが開発され、東京方面への通勤・通学需要が定着しました。

大月 ⇔ 甲府【笹子峠が分ける文化圏】

甲州街道最大の難所と言われた笹子峠は、現在でも大きな壁です。大月市民の流動データを見ると、甲府方面への移動は東京方面への移動のわずか15%程度。人の流れが明確に分断されており、長大な通勤電車を走らせるほどの需要が見込めないのです。

甲府延伸を阻む、現状の「3つのハードル」

山梨県は長年JRへ甲府延伸を要望していますが、実現には至っていません。そこには、簡単には乗り越えられない技術的・経営的な課題が存在します。

① ホームの長さが絶望的に足りない

12両編成(グリーン車込)

大月以西のホーム (例)

大月より先の多くの駅は6両編成までしか対応できず、ホーム延伸には莫大なコストがかかります。

② 超過密ダイヤと遅延リスク

山間部での遅延

都心部への広範囲な影響

走行距離が伸びると、新たな遅延要因を都心に持ち込むことになり、安定輸送が損なわれます。

③ 特急・高速バスとの厳しい競争

快速(案)

2時間以上

特急

約90分

高速バス

安価・多数

速達性・快適性・価格面で競合に劣り、投資に見合う収益は期待できません。

私(富山)からの提案:中央線快速・甲府延伸の未来像

しかし、これらの高いハードルも、工夫次第で乗り越えられるかもしれません。ここでは、甲府延伸を実現するための具体的な未来像を提案いたします。

提案①:大月駅での分割・併合による甲府直通運転

最大の課題である「ホーム長問題」を、既存の運行システムを応用してクリアする現実的なプランです。観光需要のある富士急行線直通列車と組み合わせることで、効率的な運行を目指します。

【下り】東京 → 甲府・河口湖

東京駅
8両
4車両
12両編成
大月駅 (分割)
8両
→ 甲府方面へ (6両ホーム駅は通過)
4両
→ 河口湖方面へ

提案②:列車種別の整理・統合

甲府延伸に伴い、利用者の分かりやすさを重視して、現在複数存在する「特快」系統を整理・統合します。

現状の種別

  • 快速
  • 通勤快速
  • 中央特快
  • 青梅特快
  • 通勤特快

改良後の種別

  • 快速
  • 通勤快速
  • 特別快速 (←統合)
  • 通勤特快

提案③:新しい停車駅パターン

整理された種別ごとの停車駅案です。利便性と速達性のバランスを考慮し、高尾以西はホーム長に対応できない駅を通過します。

駅名 各駅停車 快速 通勤快速 特別快速 通勤特快
東京津田沼・千葉方面
神田
御茶ノ水
水道橋
飯田橋
市ヶ谷
四ツ谷
信濃町
千駄ヶ谷
代々木
新宿
大久保
東中野
中野
高円寺
阿佐ヶ谷
荻窪
西荻窪
吉祥寺
三鷹
武蔵境
東小金井
武蔵小金井
国分寺
西国分寺
国立
立川
日野
豊田
八王子
西八王子
高尾
相模湖
藤野
上野原
四方津
梁川
鳥沢
猿橋
大月
初狩
笹子
甲斐大和
勝沼ぶどう郷
塩山
東山梨
山梨市
春日居町
石和温泉
酒折
甲府

【凡例】

停車
通過
休日は通過
運行なし

【備考】

※東山梨駅、春日居町駅はホーム有効長が6両編成分しかないため、8両編成で運行される甲府方面の列車は通過します。

※通勤特快を西八王子駅に停車とした理由については、JR東日本への要望書を参照。

【結論】現状と未来

中央線快速の甲府延伸は、「歴史」「地理」「輸送効率」という複合的な要因で、現状では実現が困難です。

しかし、今回の私の提案のように、既存の仕組みを応用し、運行の工夫を凝らすことで、未来の実現可能性は十分にあります。利用者の利便性向上とJRの経営的判断が両立し、中央線快速が甲府まで延伸する日が来ることを強く期待しています。